2025年6月7日
【第2回】「安静にしすぎ」は逆効果?〜動かすことで回復を早める理由と最新リハビリの考え方〜
交通事故に遭った直後、首や腰に痛みがあると、「とにかく安静にしないと悪化するのでは」と考えてしまう方が多いのではないでしょうか。
もちろん、炎症が強い**急性期(事故後3〜7日程度)**には、過剰な運動は避けるべきです。しかしその後もずっと安静を続けていると、かえって痛みが長引いてしまう可能性があります。
今回は、「なぜ動かした方が良いのか?」「どのようにリハビリを進めていくべきか?」といった、最新のリハビリ医学の考え方をご紹介します。
■ 「痛いから動かさない」は間違い?
事故後の痛みは、筋肉や靱帯、関節周囲の損傷により起こります。これらの組織は、適度に動かすことで血流が促進され、修復が進む性質があります。
ところが、ずっと動かさずに安静にしていると…
- 筋肉や関節が固まりやすくなる
- 神経が過敏になり、痛みを感じやすくなる
- 体が“動かすこと=痛い”と学習し、**回避行動(fear avoidance)**が起こる
という悪循環に陥り、**「痛みの慢性化」**を招いてしまいます。
■ 医学的エビデンスでも「早期の活動再開」が推奨されています
近年の研究では、交通事故後の頸部痛・腰部痛に対して、**「過度な安静よりも、適度に動かす方が予後が良い」**という結果が数多く報告されています。
🔍 代表的な研究例:
- Sweden Neck Study(2000)
→ むち打ち症に対して早期に運動療法を取り入れた群は、安静指示のみの群より早期に回復し、痛みの再発も少なかった。 - WHO(世界保健機関)ガイドライン(2003)
→ 「外傷性頚部症候群(むち打ち)」に対して、できる限り早期に通常の生活に戻すことが望ましいと記載。 - 日本整形外科学会の指針
→ 頸椎捻挫においては、過度の安静よりも早期のリハビリを勧めています。
これらのガイドラインや研究からも、「動かさない」ことが必ずしも身体に優しいとは限らないことがわかります。
■ では、どう“動かす”のが正解?
もちろん、ただ闇雲に動かせばよいわけではありません。痛みや機能の回復段階に応じて、以下のようにステップを踏んだ運動療法が必要です。
【段階的なリハビリの進め方】
🔵 Step1:軽い可動域運動(急性期〜)
- 首や腰を痛くない範囲でゆっくり動かす
- 呼吸を意識しながらの脱力運動
→ 筋肉の緊張を防ぎ、血流を促進します
🟢 Step2:持続的な姿勢・関節調整(亜急性期)
- 猫背・反り腰などを改善するストレッチ
- 姿勢保持筋の強化(体幹トレーニング)
→ 日常生活で再び痛みが出にくい体づくり
🟡 Step3:日常動作・運動負荷(回復期)
- 歩行や軽い筋トレ、スポーツ動作の再開
- 自宅でのセルフエクササイズ指導
→ 仕事・家事・趣味への復帰をスムーズに
■ 動かす=怖い?そんなときは…
事故後に痛みが続くと、「また痛くなるのが怖い」「動かしたら悪化するかも」と考えてしまい、身体をかばい続けてしまう方が少なくありません。
しかしこの「恐怖回避行動(fear avoidance)」は、筋力の低下や神経の過敏化を招き、症状をより長引かせる一因となります。
だからこそ、専門家のサポートのもと、安全に動かす体験を重ねることが非常に大切です。
■ 当院のリハビリでは
当院では、国家資格を持つ理学療法士・柔道整復師が、科学的根拠に基づいた段階的なリハビリを提供しています。
- 急性期の**物理療法(超音波・HV・SSP等)**で炎症と痛みを抑え
- 姿勢や可動域の評価をもとに個別運動プログラムを提案
- 自宅でも取り組めるセルフエクササイズも指導
「もう治らないかもしれない」と不安を感じている方にこそ、正しいリハビリで回復できる道があることを知っていただきたいと考えています。
✅ まとめ
- 痛みがあるからといって「ずっと安静」は逆効果に
- 動かすことで血流や組織修復が促され、痛みが軽減
- 恐怖回避行動を乗り越えるには、段階的な運動療法がカギ
- 自己流で悩む前に、専門家による評価とサポートを
📝 次回予告(第3回)
「リハビリをサボるとどうなる?」
交通事故後の“慢性痛”を防ぐには?〜回復を妨げる生活習慣と注意点〜