2025年6月13日
【第4回】外傷性頚部症候群と外傷性腰部症候群とは?〜交通事故後の首・腰の症状を正しく理解しよう

交通事故のあと、「首が痛い」「腰が重い」「動かしにくい」といった症状が現れることは少なくありません。見た目に大きな外傷がない場合でも、事故による衝撃で内部にダメージが生じている可能性があります。
このような事故後の首や腰の不調は、医学的には
- 外傷性頚部症候群(WAD:Whiplash Associated Disorders)
- 外傷性腰部症候群
と呼ばれます。
今回はこれらの症状の特徴、診断方法、注意点などについて詳しくご紹介します。
■ 外傷性頚部症候群(WAD)とは?
🧠 「むち打ち症」の医学的名称
WADは、いわゆる「むち打ち症」にあたります。自動車の追突事故や急停車による衝撃で、首が前後に強く振られることによって起きる障害です。
🔍 主な症状
- 首の痛み・重さ・こわばり(首を動かしにくい)
- 肩こり、背中の張り
- 頭痛
- めまい、吐き気、耳鳴り
- 手のしびれ(神経の圧迫を伴うことも)
📊 WADの分類(ケベック分類)
WADは症状の重症度に応じて以下のように分類されます:
グレード | 症状 | 説明 |
---|---|---|
0 | なし | 痛みも異常もない |
1 | 軽度 | 痛み・こわばりのみ。身体所見なし |
2 | 中等度 | 筋肉や関節に圧痛・可動制限あり |
3 | 重度 | 神経学的症状(反射異常・筋力低下など)あり |
4 | 極めて重度 | 骨折や脱臼を伴う(要緊急処置) |
※一般的に整骨院や接骨院で対応できるのはグレード1〜2程度。
■ 外傷性腰部症候群とは?
事故による腰への衝撃や緊張によって発生する腰部の障害です。転倒や追突など、全身が揺さぶられるような事故で生じやすくなります。
🔍 主な症状
- 腰の痛み(座位・起立時・前屈時に強くなる)
- 腰周辺の筋肉の緊張、張り感
- 腰を反らす・ひねる動作での違和感
- 足のしびれやだるさ(神経への影響がある場合)
腰部のレントゲンでは異常が見つからないことが多いですが、筋肉や靭帯、椎間関節の損傷や炎症が背景にあると考えられます。
■ WAD・外傷性腰部症候群に共通するポイント
1. 画像に異常が見つからなくても症状がある
MRIやレントゲンで異常が見られない場合でも、組織レベルでの損傷や神経の過敏化が起こっている可能性があります。これを「非特異的疼痛」といい、症状があること自体がリハビリの対象になります。
2. 早期のリハビリが重要
急性期を過ぎても痛みや可動域の制限が続くと、慢性化して長引くリスクが高まります。適切な時期に適切な施術とセルフケアを取り入れることが大切です。
3. 心理的ストレスや不安が悪化要因に
事故のショックや将来への不安が痛みを過敏に感じさせることがあります。患者さんの心理的ケアも大切です。
■ 禁忌・注意すべきケース
以下のような症状がある場合は、まず医師の診断を最優先とし、整骨院での施術は避けるべきです。
- 首や腰の激しい痛みや腫れがある
- 安静時でも痛みが引かない
- 手足のしびれが悪化している
- 発熱を伴う
- 排尿・排便に異常がある(神経の圧迫が疑われる)
これらは骨折・神経損傷・感染症など、より重大な病変の可能性があるため、整形外科での精査が必要です。
■ 当院での対応
当院では、交通事故後の頚部・腰部に対して
- 物理療法による疼痛軽減
- 徒手療法
- 運動療法(ストレッチポール、リリースボール、セラバンド含め)
- 運動指導(ストレッチ・筋力トレーニング)
を組み合わせた段階的リハビリを提供しています。慢性化させないためにも、事故後は早めのご相談をおすすめします。
✅ まとめ
- 外傷性頚部症候群は「むち打ち症」の正式名称で、重症度によって分類される
- 外傷性腰部症候群は腰の筋肉・関節・靭帯の障害で、しばしば画像所見なし
- 両者とも早期のリハビリと継続的なケアが回復のカギ
- 神経症状や強い痛みがある場合は医師による診断を優先すべき
📝 次回予告(第5回)
「リハビリでどう変わる?事故後に必要なアプローチとその根拠」
リハビリの効果や実際の改善事例をご紹介します。